バンラムン土地事務所の窓口に、400万バーツのキャッシャーズチェックとタイ法人の株主リストを持った買主が立つ。1年前ならこの手続きは90分で完了していた。しかし2026年5月以降、担当官が最初に聞くのはこうだ。「この資金はどこから来たのか」「あなたの職業は」「51%を保有するタイ人株主が、これまで一度も配当を受け取っていないのはなぜか」。
プーケットや周辺エリアでヴィラ購入を検討してきた日本人の間でも、「タイ法人(タイカンパニー)を使えば土地付き戸建てが買える」という説明を仲介業者から受けたことがある人は多いだろう。だが2026年、その前提が大きく揺らいでいる。
何が変わったのか:新しい法律ではなく「統一された執行」
2026年5月、タイ土地局(Department of Lands)は全国76県すべての地方土地事務所に対し、「最優先(most urgent)」と明記した3つの通達を発出した。これは新法ではない。20年前から存在していた土地法典(Land Code)の条項を、全国で一貫して運用するための仕組みだ。
これまで土地事務所ごとに情報が分断されていた。バンコクで登記された法人がスラートターニーで土地を買っても、DBD(商務省事業開発局)の届出内容と土地登記が突き合わされることはなかった。今回導入されたのは、法人による土地所有を継続的に監視する全国統一データベースだ。つまり2019年に完了した取引であっても、2027年の審査サイクルで再び表面化する可能性がある。監視は「登記時の一回限りの確認」から「継続的なモニタリング」に変わった。
200万バーツと500万バーツ、2つの審査ライン
新しい仕組みの核心は、次の2つの金額基準にある。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 200万バーツ超 | 現金での支払いがこの額を超えると、資金源・所得・職業・財務状況全般の審査が発動 |
| 500万バーツ超 | 不動産の評価額(appraised value)がこの額を超えると、支払方法を問わず同様の強化審査が発動 |
この200万バーツという基準は恣意的なものではない。土地付きヴィラのほとんどの価格帯をカバーする一方、地方でのタイ人同士の一般的な取引の大半は除外される、外国人が関わる市場セグメントを狙い撃ちした設計だ。銀行側もすでに独自の対応を強化しており、複数の銀行が法人名義の購入に紐づく資金の入出金前に、3か月分の銀行取引明細の提出を求めるようになっている。
ニー・ミニー(名義株主)スキームはなぜ「常に違法」だったのか
プーケットのコンドミニアムより古くから存在するこの仕組みは、今まさに一枚ずつ解体されている。タイの土地法典は、ごく一部の例外を除き外国人による土地の直接所有を禁じている。市場が数十年前に出した答えが、タイの有限会社スキームだった。外国人が49%、タイ人株主が51%を保有するが、実際にはタイ人株主は資本を出資せず、経営にも一切関与せず、自分が2,500万バーツのヴィラの名義上の所有者であることすら知らないケースも多かった。
弁護士たちは長年これを「有効な解決策」として売ってきたが、法的には一度もそうではなかった。土地法典113条は、タイ国籍者が外国人のために土地を保有することを明確に禁止している。
変わったのは条文の文言ではなく、国家が全体像を一度に見渡す能力だ。
審査対象になったら即「違法」なのか
ここは誤解が多い部分なので明確にしておきたい。審査対象に指定されること自体は、違反の確定を意味しない。あくまでスクリーニング(screening)であり、判決(verdict)ではない。
リスクが高いと判定された法人(外国人保有比率などの基準による)は、さらに踏み込んだ審査を受ける。
- 株主名簿
- DBD(商務省事業開発局)への提出書類
- 契約書類
- 場合によっては現地への立入調査
プーケットだけで、すでに600社超がタイ特別調査局(DSI)と商務省の審査対象になっている。この取り締まりは2026年8月1日付のOrder 2/2569によってさらに強化された。
本物のビジネス、たとえばホテルや飲食店、農業事業を実際に運営し、収益・税務・給与体系があり、タイ人株主が実際に資本を出資しているケースには、そもそもこの話は当てはまらない。これらはまさに、法律が当初から保護しようとしていた構造そのものだ。問題は法人という形式自体ではなく、10件中9件でその形式が「空の箱」として使われてきたことにある。
タイ不動産の視点:会社スキームはもう選ぶべきではない
弊社タイ不動産の見解は明確だ。個人の住宅所有の手段として、タイ法人スキームはほぼ役目を終えたと考えている。既存のスキームがすべて即座に解体されるという意味ではない。だがそこに付随するリスクは今、期限のない、長期にわたるものになった。そして再販時に、その不確実性を買主に説明するのは容易ではない。
自宅として住む、あるいは賃貸に出す目的で購入するなら、コンドミニアム法上の外国人フリーホールド枠(建物総面積の最大49%まで)での購入、または正式に登記された長期土地リースの方が、会社スキームにはもう望めない予測可能性を提供してくれる。
ただし一つだけ強く言っておきたいことがある。取引直前に株を買い増したり株主を入れ替えたりして構造を「クリーンアップ」しようとする行為は、目をそらすどころか逆に注目を集める。調査官は株主名簿とDBDの届出履歴を照合するため、収益のない会社での急な株主構成の入れ替えは、まさにそう見えるままに読まれてしまう。
予算が数百万バーツ規模の小規模な投資で、そもそも法人スキームを検討していないという読者には、以上の議論はそのまま当てはまらないことも付け加えておく。
今すぐできる実務対応
今取るべき実務的なステップは単純だ。自分の権利証(title deed)と法人の設立関連書類を取り出し、土地事務所が審査する前に、自分自身で独立した監査を行っておくこと。もし構造が「空の箱」であるなら、それを土地事務所に見つけられる前に、自分のタイミングと条件で対処したほうがはるかに良い。
登記のためだけにタイへ渡航する予定がある人は、以前のような即日完了を前提にせず、余裕を持ったスケジュールを組んでおくべきだ。銀行取引明細や所得証明、資金源の説明を求められれば、審査強化の対象となった取引は2〜4週間かかることも珍しくない。
出典:Calinka Thailand(Dzen)
